消費税率引上げに向けての経過措置の対応(第3回)

(はじめに)
消費税法改正に伴う改正後の税率は、原則として、施行日以後に国内において事業者が行う「資産の譲渡等」及び「課税仕入れ及び保税地域から引き取られる課税貨物」(以下「課税仕入れ等」といいます。)に係る消費税について適用されます。
しかしながら、施行日(平成26年4月1日)以後に行われる資産の譲渡等及び課税仕入れ等であっても、一定のものは例外的に改正前の税率(5%)を適用することとされています。これが「経過措置」といわれるものです。
今回は「消費税率引上げに向けての経過措置の対応」の最終回として、前2回で取り上げなかった経過措置の内容や対応について解説いたします。

1.「旅客運賃等」に関する経過措置
事業者が、旅客運賃、映画・演劇を催す場所等への入場料金を施行日前(平成 26 年3月31日まで)に領収している場合において、その対価の領収に係る課税資産の譲渡等が施行日(平成26年4月1日)以後に行われるときは、その課税資産の譲渡等については、改正前の税率(5%)が適用されます。
この経過措置の適用対象となる旅客運賃等の範囲は、以下のとおりです。
① 汽車、電車、乗合自動車、船舶又は航空機に係る旅客運賃(料金を含む。)
② 映画、演劇、演芸、音楽、スポーツ又は見せ物を不特定かつ多数の者に見せ、又は聴かせる場所への入場料金
③ 競馬場、競輪場、小型自動車競走場又はモーターボート競走場への入場料金
④ 美術館、遊園地、動物園、博覧会の会場その他不特定かつ多数の者が入場する施設又は場所でこれらに類するものへの入場料金

【キドコロ先生のコメント】
列車の乗車券・指定席券や映画の前売り券の販売等についても、支払いの時期と役務提供の時期とが施行日をまたぐ場合、経過措置の対象となります。消費税率の引上げにより電車運賃も値上げされることを前提とすると、施行日以降の定期券や乗車券を購入する場合、施行日前までに購入すれば、理論的に3%(消費税率8%-5%)だけ値段が異なるということになります。
なお、利用者が施行日前(平成26年3月31日まで)にICカードに現金をチャージ(入金)し、施行日(平成26年4月1日)以後にそのICカードにより乗車券等を購入する場合、又は乗車等する場合、ICカードへ現金がチャージ(入金)された時点では乗車券等の販売を行っていることとなりませんから、経過措置の対象にはなりません。

2.「電気料金等」に関する経過措置
事業者が継続的に供給し、又は提供することを約する契約に基づき、施行日前(平成26年3月31日以前)から継続して供給し、又は提供される電気、ガス、水道水及び電気通信役務で、施行日(平成 26 年4月1日)から平成26年4月30日までの間に料金の支払いを受ける権利が確定するもの(平成26年4月30日後に初めて料金の支払を受ける権利が確定するものにあってはその確定したもののうち一定部分に限ります。)については、改正前の税率(5%)が適用されます。
この経過措置の対象となるのは、次に掲げる課税資産の譲渡等のうち、検針その他これに類する行為に基づき料金の支払を受ける権利が確定するものです。
① 電気の供給
② ガスの供給
③ 水道水又は工業用水の供給及び下水道を使用させる行為
④ 電気通信役務の提供
⑤ 熱供給及び温泉の供給

【キドコロ先生のコメント】
基本料、付加機能使用料及び通話料等を一括して利用者に請求する携帯電話(電気通信役務の提供)の料金は、一定期間の通話料に応じて支払いを受ける権利が確定するものですから、この経過措置の適用対象となります。
また、インターネット通信料金等で使用料の多寡に係らず毎月、一定額を支払う定額通信料金制のものは、検針等により料金の支払いを受ける権利が確定するものではないことから、この経過措置の適用対象となりません。

3.「予約販売に係る書籍等」に関する経過措置
事業者が、指定日前(平成25年9月30日まで)に締結した不特定かつ多数の者に対する定期継続供給(注)契約に基づき譲渡する書籍その他の物品に係る対価の全部又は一部を施行日前(平成26年3月31日まで)に領収している場合において、その書籍等の譲渡を施行日(平成26年4月1日)以後に行うときは、その領収した対価に係る部分の書籍等の譲渡については改正前の税率(5%)が適用されます。
(注)「定期継続供給」とは、週、月、年その他一定の周期を単位とし、おおむね規則的に継続して供給することをいいます。

4.「通信販売等」に関する経過措置
通信販売(注)の方法により商品を販売する事業者が、指定日前(平成25年9月30日まで)にその販売価格等の条件を提示し、又は提示する準備を完了した場合において、施行日前(平成26年3月31日まで)に申込みを受け、提示した条件に従って施行日(平成26年4月1日)以後に商品を販売するときは、その商品の販売については改正前の税率(5%)が適用されます。
(注) 通信販売とは、一般に、新聞、テレビ、チラシ、カタログ、インターネット等の媒体を通じて購読者又は視聴者等に対して販売条件を提示し、郵便・電話その他の方法により売買契約の申込みを受けてその提示した条件に従って行う商品の販売をいい、予約販売に係る書籍等に関する経過措置に規定する契約に係る販売を除きます。
【キドコロ先生のコメント】
ここでいう「販売価格等の条件を提示する準備を完了した場合」とは、販売条件等の提示方法に応じ、いつでも提示することが出来る状態にある場合を言いますから、例えば、販売条件等を掲載したカタログ等の印刷物の作成を完了した場合などがこれに該当します。

5.「特定新聞等」に関する経過措置
事業者が、不特定かつ多数の者に週、月その他の一定の期間を周期として定期的に発行される新聞又は雑誌で、その発行者が指定する発売日が施行日前(平成26年3月31日まで)であるもの(特定新聞等)を施行日(平成26年4月1日)以後に譲渡する場合、その譲渡については改正前の税率(5%)が適用されます。

6.「有料老人ホーム(介護サービス)」に関する経過措置
事業者が、指定日前(平成 25 年9月30日まで)に締結した有料老人ホームに係る終身入居契約(注)で、入居期間中の介護料金(消費税が非課税とされるものを除きます。)を入居一時金として受け取っており、かつ、その一時金について事業者が事情の変更その他の理由によりその額の変更を求めることができる旨の定めがないものに基づき、施行日前(平成26年3月31日まで)から施行日(平成26年4月1日)以後引き続き介護に係る役務の提供を行っている場合には、施行日(平成26年4月1日)以後に行われる入居一時金に対応する役務の提供については改正前の税率(5%)が適用されます。
(注)終身入居契約とは、その契約に基づき、その契約の相手方が有料老人ホームに入居する際に一時金を支払うことにより、その有料老人ホームに終身居住する権利を取得するものをいいます。
【キドコロ先生のコメント】
上記の有料老人ホーム(介護サービス)について、指定日(平成25年10月1日)以後に入居一時金の額の変更が行われた場合には、その変更後に行う役務の提供については、この経過措置が適用されません。

7.経過措置を理解するために!クイズです。

経過措置を間違えることなく活用しないと、消費税及び地方消費税(以下「消費税等」といいます。)の負担が重くなると聞きましたが、本当ですか?

回答
あなたが消費税の課税事業者で、本来の「本則課税計算」を行っている限り、経過措置の適用不適用で、消費税等の負担は変わりません。
課税事業者が消費税等の申告をする場合の計算方法としては、「本則課税制度」と「簡易課税制度」があります。
(注)本来は、消費税の計算を行い、それに一定の率を乗じて地方消費税を算出しますが、ここでは便宜的に消費税と地方消費税を合算した「消費税等」の額で解説いたします。
本則課税の税負担は、次のように計算されます。
課税売上げに係る消費税等の額 - 課税仕入れ等に係る消費税等の額 = 消費税等の納付額
この方法で消費税の計算をした場合、経過措置の適用の有無によって事業者にどのような影響が発生するのかを、簡単な条件の例示で計算してみました。
【前提条件】売上1,000円、仕入700円(どちらも税抜価格)      [単位:円]
名称未設定-1上の表からも分かるように、課税売上げ・課税仕入れのそれぞれで経過措置を活用する場合としない場合では、消費税の納付(還付)税額では差が発生しますが、消費税を納付(還付)した後の事業者の最終利益は全て同じ300円になります。
つまり、消費税は預かったものから支払ったものを差し引くものなので事業者にとっての利益には影響を及ぼさないということになります。

【キドコロ先生のコメント】
消費税率の引上げに向けての経過措置の対応について全3回にわたり解説してきましたが、ご自分の事業や経営においてどの経過措置を活用できるのかをもう一度見直してください。
本則課税計算の課税事業者は、経過措置の活用の有無によって事業における最終利益は影響されませんが、一時的にキャッシュフローに影響が出る場合もあります。また、簡易課税計算を選択している課税事業者や免税事業者の方は自社に有利な経過措置の活用を検討してください。
詳しくは最寄りの商工会議所における税理士の相談窓口でご相談ください。

無題城所 弘明(キドコロ ヒロアキ)
役職:所長 公認会計士・税理士・行政書士
所属:城所会計事務所

《プロフィール》
横浜国立大学を卒業し、1980年公認会計士及び税理士の登録。
現在、日本公認会計士協会「経営研究調査会」事業承継専門部会 部会長、日本商工会議所「税制専門委員会」学識委員。
著書には、『実践 経営改善計画の進め方』(清文社)、『社長さん必読!プロが教える事業承継の税金と法律』(東洋経済新報社)、『専門家のための Q&A経営承継円滑化法・事業承継税制徹底活用』(ぎょうせい)等がある。

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